4アマデウス弦楽四重奏団の想い出
アマデウス弦楽四重奏団がケルン音大で教え始めてから数年後のこと、ドイツのテレビ局ARDが取材にきた。
アマデウスSQがケルン音大で教えることが既にニュースになるのだと、そのとき僕は思った。
取材陣は決して小さな陣容ではなかった。
実際の放送では、音大のすぐ側を流れるライン河岸辺で、アマデウスSQの4人が談笑する姿からスタートし、ケルン音大まで歩く姿が映しだされた。
映像は更に、彼らのリハーサル、レッスン風景と続き、僕がロヴェット氏とブラームスのクラリネット三重奏曲を一緒に練習している映像まで放映された。
その取材当日のこと、取材陣のスタッフがロヴェット氏に「あなた方ほどの音楽家が、このような若者に音楽を教える意味とは、、、」とマイクを向けた。
ロヴェット氏が答えた内容は、若き日の中で最も感銘を受ける言葉だった。
それは、、、「私たちは、ただ単に教授として教える為に来ているのではない。むしろ私たちは、このような若い音楽家の仲間と一緒に学ぶために来ている。確かに、私も意見を述べることはあるが、私もまた、日々この若い仲間たちから学んでいるのだ」というものだった。
その後、この放送のビデオを何度も繰り返し観ては、素晴らしい先生方のもとで学べる喜びを噛みしめた。
ところで、この番組放送には続きがある。
この番組が放送された日は、ロヴェット氏が定宿にしているホテルの部屋で、ビールを飲みながら一緒にテレビを観ていた。
すると突然、シドロフ氏がドアをノックするなりニッセル氏を伴って現れ、次のように語った。
「マーティン、何してる!?今宵、音大ホールで新人演奏家による素晴らしいコンサートがあったのに!」
ロヴェット氏は苦笑いしながら誤魔化していたが、僕は消えてしまいたいほど小さくなっていた。
当時はケルン音大の大ホールと室内楽ホールの二ヶ所で、毎晩のようにコンサートが開催されていた。出演者は学生のみならず、学内学外を問わず、音大の先生方も出演していた。なかでもアマデウスSQは度々登場した。
ニッセル氏は、後日「どのような演奏会からも学ぶことは出来る。良い演奏会は言うまでもなく、たとえ良くない演奏でも、どうすれば、そのような結果になるか学べる。だから私たちは出来るだけ演奏会を聴くように心がけている」と説明して下さった。
彼らの音楽に対する姿勢は常に見習うべきものがあった。
因みに、ロヴェット氏の部屋でビールを飲んでいたのは、アマデウスSQが取材を受けた番組が放映されたからであり、ロヴェット氏の音楽に向かう姿勢に、日頃から尊敬の眼差しを注いでいたのは言うまでもないことである。